HEP Laboratory: ATLAS Experiment
概要
ATLAS実験は、ジュネーブ郊外のLHC(Large Hadron Collider)加速器による
高エネルギー陽子陽子衝突を用いた素粒子研究である。2010年の初衝突を経て,
2011年現在、重心系7TeVの世界最高エネルギーでの素粒子実験が継続されている。
この実験により、素粒子の世界を様々な観点から検証できるが、以下の3つは
最も重要な研究課題である。
ヒッグス粒子の探索
ヒッグス粒子は、真空中に存在し粒子の運動に抵抗を与えることで粒子に
質量を与えるもので、質量の起源とされる未確認の粒子である。この根本の原
理を提唱したのは、2009年のノーベル賞受賞者の南部博士であるが、素粒子の
質量に適用した英国のヒッグス博士の名前がつけられている。
素粒子の標準模型では、力を伝えるボーズ粒子はゲージ原理により生成される
が、本来質量がゼロでなくてはならない。1983年に質量を持ったW、Z粒子が発
見されたため、ゲージ原理を「あからさまに」破らないヒッグス粒子が
標準模型では必要されている。
ヒッグス粒子はあまり重すぎると質量の輻射補正のために発散してしまう
ので、800GeV以下でなくてはならない。また、今までの精密測定からヒッグスの
存在範囲が限定され、以上の知見を総合すると、「ヒッグス粒子が存在すれば
LHCでは必ず発見できる」質量領域にある。
超対称性粒子の探索
スピン1/2のフェルミ粒子とスピン1のボーズ粒子は、素粒子の世界ではそ
れぞれ、物を構成する素粒子、力を伝える素粒子として区分されている。
ヒッグス粒子が存在すると、輻射補正のためにより高エネルギーでは質量が
発散し,すべての相互作用を統一したい立場からは不都合な状況に陥る。超対
称性(SUSY)は、フェルミ粒子には対となるボーズ粒子が存在する(またその
逆も)理論であるが、今だ、そのような粒子は発見されていない。
SUSY理論が正しければ、現在確認されている素粒子は倍になる必要性があるが、
根元的な質量発散の問題を美しく解決できるので、またこの理論が正しければLHCのエ
ネルギーで発見できる可能性が強いため、ATLAS実験への期待は高い。
SUSY粒子で最も軽い粒子(LSP=lightest super-symmetry particle)は
安定な中性粒子と考えられ、これが宇宙の暗黒物質である可能性もある。
余剰次元起源のブラックホールの生成
空間3次元は我々が親しんでいる世界であるが、距離の短かな高エネルギー
の世界でも本当にそうだろうか。4つの力のうち、
強い力、電磁気力、弱い力の3種類については、今までの素粒子実験で異
常は見られていない。しかし、重力はあまりに弱く、またスピン2の重力子は
他の相互作用と違って短距離での振る舞いが違い得るので、3次元を超える余
剰次元が現れる可能性がある。例えばM理論では11次元が4次元にコ
ンパクト化される、ことを要請している。
余剰次元があると、短い距離では重力が急激に強くなり、光が抜け出せなく
なるミニブラックホールがLHCのエネルギーでも形成される可能性がある。
ATLAS Experiment - Public Results