計画研究A02:Bファクトリーを用いた質量起源の探求
代表 | 相原 博昭 | 東京大学大学院理学系研究科 | 助教授 | 素粒子実験 |
代表 | 田島 宏康 | 東京大学素粒子物理国際研究センター | 助手 | 素粒子実験 |
| | | | 以上2名 |
本計画研究の目的は,KEK Bファクトリーでの実験の第二段階として,
この標準理論の先にあると思われる,
より基本的な物理法則についての手がかりを得ることにある。
標準理論は,個々のフェルミオンの質量が,
なぜ現在観測されているような値になっているのかを説明することはできない。
さらに,最近のニュートリノ実験が強く示唆するゼロでない有限な値のニュートリノの質量は,
ニュートリノは質量をもたないと仮定する標準理論に,その変更を迫っている。 我々の研究は,個々のフェルミオンの質量はどのような原理・法則のもとに
決まっているのか,これを説明する標準理論の先にあるより基本的な物理法則の発見を目指して,
新しい物理が出現すると期待されているB中間子の稀な崩壊過程を,
現在の実験装置の約2倍の分解能を持つ装置を
使って精密測定することを目的としている。
特に,より基本的な物理法則として期待されている,
フェルミオンとボゾンの間の対称性に基づく「超対称性理論」の予測するB中間子の崩壊モードの精密測定を研究期間内の第1の目標としている。
我々が、過去5年間にわたって開発研究を続けてきたピクセル検出器を用いると,
B中間子の崩壊点を約50μm
の精度で測定することができる。
これは,現行の検出器の精度を2倍以上向上させたもので,その結果
B中間子崩壊によって生成したチャーム中間子などの崩壊点の同定も可能である。
このため,B中間子崩壊の中で,
超対称性理論の効果が現れると予測されている
崩壊モードB0→ K*μ+μ-, K*e+e-, Xsγ, Xdγなど)のデータに含まれるバックグランド(主に,
チャーム中間子)を取り除いて,データ
のS/N比を飛躍的に向上することができる。その結果,きわめて稀にしか発生しない
超対称性反応の検出が他の実験に先駆けて初めて可能になる。
もし逆に,この結果超対称性反応が検出できなければ,
超対称性理論に大きな制約を課すことができる。
KEKのBファクトリーは,世界最大のビーム強度を達成しており,
スタンフォード大の同型加速器と並ぶ
世界最高の性能を誇っている。
次の5年間で稼動する加速器は,
これら2つのBファクトリーと,
米国フェルミ研究所の陽子・反陽子加速器おいて他にはなく,
標準理論を超える新しい物理の研究に,
わが国の高エネルギー加速器実験が大きな寄与をすることができる。
我々のグループは,Bファクトリーを使って,B中間子におけるCP非保存現象について
すでに国際的に評価の高い結果を出してきた。
KEKのBファクトリーに,我々の開発した高い位置分解能を
有した次世代荷電粒子崩壊位置検出器を
導入すれば,B中間子物理を生み出す独壇場となるだけでなく,
今後の素粒子物理学の方向を決める重要な結果を得ることができると確信している。
平成14年度
- 擬ピクセル検出器に基づく,B中間子の第2世代崩壊位置検出器を完成し,宇宙線による性能試験を重ねた後,
Bファクトリーのビームラインに設置する。
そののちBファクトリーのビームを使って,検出器のアラインメント(位置出し)を行うとともに,
位置分解能を宇宙線や電子陽電子弾性散乱(Bhabhar scattering)を使って測定する。
同時に,Bファクトリー実験装置(Belle)の各検出器との調整を行う。
また,Bファクトリーから擬ピクセル検出器に放出される放射線
(主に,γ線)バックグランドを,ビーム衝突点近傍に設置した
放射線モニター(小型PINダイオードで製作したもの)で測定し,
Bファクトリーのビームの調整を行う。
- 標準理論が予想するCP非対称なB崩壊モードについての測定を
完了させ,ユニタリー三角形の測定を完了する。三角形の内角の和が,πになるかどうかが,
B中間子のCP非保存現象の起源が標準理論のみにあるのか,
それとも超対称性のような新しい物理を必要とするのかを知る第一歩となる。
- 標準理論では,CP非保存が予想されておらず,超対称性の効果が出現すると期待されている
B中間子の崩壊モード B0→K*l+l-, Φ Ks, Xsγ, Xdγについて,部分崩壊幅の測定など,
予備的な測定を行う。
- 大面積シリコントラッカーの(製作を行う。
平成15年度
- 擬ピクセル検出器を用いてB0→Φ KsとB0bar→Φ Ksの崩壊時間分布の精密測定を行う。
この崩壊モードは,超対称性の効果に敏感な反応として期待されている反応である。
- B0→ K*l+l-, Xsγ, Xdγについて高統計測定を行うとともに,
擬ピクセル検出器を使って,チャーム中間子によるバックグランドの排除をより一層進める。
標準理論から予想されるこれらの反応の分岐比10-6を十分に観測できる感度を達成できる。
超対称性理論が正しければこれらの反応の断面積が大きくなるだけでなく,CP非対称性も出現する。
- 大面積シリコントラッカーを完成させ,擬ピクセル検出器の外側に設置する。
- チャーム中間子崩壊におけるCP非保存:
CPの混合状態であるD0→ K-π+とCP固有状態であるD0→ K-K+崩壊への寿命の差を測定するとD0中間子におけるCP非保存現象を測定することができる。
標準理論の予想は0であるが,超対称性は有限値を与える。このモードの高精度の測定を行う。
平成16年度
- B+→ τ+νの測定:このモードの分岐比に対する
標準理論の予想値は,10-5であるが,超対称性理論などの新しい物理の存在はこの分岐比を増加させる。
- 以上の測定を通じて,超対称性理論現象についての手がかりをつかむ。
あるいは,超対称性理論に対して,
これまでの実験では得られなかった強い制限を与える。いずれの測定においても,
第2世代シリコン検出器(ピクセル検出器)の存在が不可欠である。
平成17年度
- これまでに得たBファクトリーのデータすべてを用いて,標準理論の self consistency (自己無矛盾性)を
理論グループとともにテストする。標準理論の質量生成機構(ヒッグス機構)がB中間子崩壊の精密データと矛盾しないか
どうか多自由度最尤法 (Multi-parameter Maximum Likelihood Method) による解析を行う。もし矛盾がなければ超対称性
を含む新理論に強い制約を課すことができる。
逆に,もし矛盾が明らかになれば素粒子論の基盤を揺るがす発見となる。
- 超対称性現象直接探索の総括を行う。
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