計画研究A04:Kファクトリーを用いたKL→ π0νν崩壊の測定
代表 | 山中 卓 | 大阪大学大学院理学研究科 | 教授 | 素粒子実験 |
| 羽澄 昌史 | 大阪大学大学院理学研究科 | 助手 | 素粒子実験 |
| 原 隆宣 | 大阪大学大学院理学研究科 | 助手 | 素粒子実験 |
| 稲垣 隆雄 | 高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 | 教授 | 素粒子実験 |
| 佐藤 任弘 | 高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 | 助教授 | 素粒子実験 |
| Lim Gei Youb | 高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 | 助手 | 素粒子実験 |
| | | | 以上6名 |
KL→ π0ννの崩壊は,その観測が非常に難しく,それに対応する手法が種々考えられ,専門家の間で議論が尽くされた。その結果、中間エネルギー,高エネルギーおよび低エネルギーの3種類のKファクトリーを用いて,平行実験を進めるのが最も確実で,かつ相互に結果をつきあわせる事ができる点でも信頼度が 高くなるとの結論に至った。
KL→ π0νν崩壊は、理論的に明快で物理
的意義は大きいが、実験的には非常に難しいと言われてきた。 そこで我々は段階的
に実験を行うことを計画している。 現存するKEKの陽子加速器を使う
E391a実験では標準理論の予測値近くまで接近し、その後計画中の原
子力研究所との統合計画(JHF)に盛り込まれた世界最強の陽子加速器を使っての高精度実験を目論んでいる。
E391a実験では新しい実験装置を設計し建設中である。 タングステン製のコリメー
タを多段に設置するビームラインは1999年度に完成した。 これによって中性ビーム
をペンシル状に細く絞り、π0粒子の横方向運動量を求め、KL→ π0νν崩壊と競争過程を分離しようとしている。 他の崩壊と
の分離をさらに向上させるために、$K_L$崩壊の指定領域は上・下流のバレルカロリ
メーターで囲われている。 下流のエンドプレートには沃化セシウム結晶製のカロリ
メーターを設置しπ0粒子が崩壊して出来る2つのγ線のエネルギーと位置を精密に測定する。
E391aは1997年にKEK-PACで承認され、ビームラインは1999年度に完成した。 今2000
年度には上流バレル、2001年度には下流バレルを完成させ、2002年度前半に組み上げ、
年度後半に測定を開始する予定を組んでいる。 このスケジュールは世界の他の計画
に比べて格段に早い。 世界的な競争に勝ち統合計画での実験を成功させるという戦
略に基づいたものであるが、現実にはこれまでのKEKの実験で使った測定器を出来る
だけ有効に再利用することで早期立ち上げを実現しようとしている。 又、逆に、
E391aでは主としてビームラインと100トンを超える上・下流バレルを製作し、統合計
画ではこれらを再活用しようと考えている。
E391aで再利用するものの中で、沃化セシウムとADコンバーターは性能的に見て統合
計画では使えない。 これらをより高性能なもの(フッカセリウム結晶や波形変換
型ADコンバーター)へ置換する為の基礎研究も進んでいる。
本科学研究費からの援助は、この様に段階的に実験を進める上で不可欠なものである。
この間に前半部ではE391a実験でも計数率の高いビーム軸周辺でフッカセリウム及
びフッカ鉛結晶の使用を試み、中盤でフッカセリウム結晶の製作、後半で波形変換
型ADコンバーターの製作を行うという計画である。
KL→ π0νν)の分岐比ついては、1987ー8
年のデータをもとに
2.2 x 10-4の上限を与え、その後1991-2年のデータをもとに 一
桁上限値を改善し、
1996-7年に行ったKTeV実験においてさらに二桁改善した5.9 x 10-7の上限値を得た。
これらはいずれも、世界一の値である。
また、この崩壊を約100事象以上観測するKAMI実験に備えて、必要となる基礎的
な測定器の試験も行ってきた。特に、問題となる光核反応による不感率を測定するた
めにKEKの稲垣氏らと共同で実験を行い、鉛・シンチレータの積層のガンマ検出器を
用いても、KL→ π0π0からくる背景事象を抑えることができることがわかった。さらに、2000年には、KTeVの実験装置とビームラインを用いて、通常の800GeVの陽子ビームの代わりに、KAMIに近い150GeVの陽子ビームを出し、生成される中性K
中間子および中性子の数とエネルギースペクトルの測定を行った。これにより、K中
間子の数は予測とほぼ等しく、さらに中性子と割合は今まで予測していたより小さい
ことがわかった。
また、幅広いKのエネルギーと種々の実験方法についてシミュレーションを行い、
根本に立ち返って実験方法を検討し、高いエネルギーのKを使うことの重要性を確信
した。
1997年にはFermilab、米国の大学と共同で、KAMI実験のExpression of Interestを
提出し、現在、R&Dの予算がFermilabより出ている。また、Fermilabより、2001年4
月1日までにプロポーザルを提出するように
要請されており、そのための作業を進めている。これにより、2001年6月の実験
審議委員会を通し、
2005年のデータ収集を目標に準備を進める。
KAMI実験では、約15GeVという比較的高いエネルギーのKを用いる。この崩壊にお
ける主となる背景事象は、
KL→ π0π0で出る4つの光子のうち2つを見失うものである。
上のいずれの実験も余分な光子を見つけることにより、この背景事象を6桁から8桁
抑えるが、光核反応による不感度や、鉛とシンチレータの積層検出器が持つ固有の不
感度は、光子のエネルギーが高いほど低い。したがって、複雑な測定器をならべるよ
りも、高いエネルギーの$K_L$を用いて根本的に光子に対する不感度を下げて背景事
象を抑える方が有利であると考える。さらに、高いエネルギーのビームを用いると、
アクセプタンスが高いので必要なK中間子のビーム強度を下げられ、さらに測定器な
どに悪影響を及ぼす中性子とK中間子の比を小さく抑えられるなどの利点も持つ。ま
た、Main Injectorは既に稼働しているので120GeV-150GeVの陽子ビームは今でも出す
ことができ、KAMI実験に用いるビームラインは現在のKTeV実験と共通であり、CsIの
カロリメータなどの測定器、実験ホールなど既存の施設を使える点でも、有利である。
平成14年度
KEK E391a 実験の準備および、データ収集開始。
結晶の性能試験装置の製作。
FNAL KAMI実験のためのガンマ線検出器、および
データ収集システムの基礎開発。
平成15年度
KEK E391a実験のデータ収集、および解析。
統合計画に向けての測定器の製作。
KAMI実験のためのガンマ線検出器の制作。
データ収集システムの開発。
平成16年度
KEK E391a実験のデータ収集、および解析。
統合計画に向けての測定器の製作。
KAMI実験のためのガンマ線検出器の制作。
データ収集システムの立ち上げ。
平成17年度
KEK E391a実験のデータ解析。
統合計画に向けての測定器の製作。
KAMI実験開始。
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