計画研究A06:ヒッグスセクターと超対称理論ダイナミックスの
現象論的研究
代表 | 日笠 健一 | 東北大学大学院理学研究科 | & 教授 | 素粒子理論 |
| 山口 昌弘 | 東北大学大学院理学研究科 | & 助教授 | 素粒子理論 |
| 棚橋 誠治 | 東北大学大学院理学研究科 | & 助教授 | 素粒子理論 |
| 諸井 健夫 | 東北大学大学院理学研究科 | & 助教授 | 素粒子理論 |
| 山田 洋一 | 東北大学大学院理学研究科 | & 助手 | 素粒子理論 |
| | | | 以上5名 |
素粒子の標準理論が一応の確立をみてからすでに20年が経過した。
この間,標準理論によって存在が予想されていた W, Z 粒子は発見され,
最後のクォークとおぼしきトップクォークの存在も確認された。
しかし,SU(2)x U(1) 対称性の破れの機構は
いまだに解明されたとはいいがたい。破れの鍵を握るヒッグス粒子は未発見であり,
クォーク,レプトンの質量の起源の手がかりも乏しい状況にある。
これらの問題を解決するためには,標準模型を超える物理が要求されると
考えられるが,超対称性はこの有力な候補である。
現に,LEP/SLC の精密実験によって求められた3つのゲージ結合定数の値は
超対称大統一理論の予想とかなりよい一致を示している。
最小超対称模型においては,ヒッグス粒子の質量に対しきびしい制約があり,
百数十 GeV より重くなることはない。さらに一般の超対称理論でも,
大統一スケールまで理論が有効でありさえすれば,この質量の上限は大きく
変わることはないことが指摘されている。一方,
最新の電弱相互作用の精密測定データによれば,ヒッグス粒子の
質量が 100 GeV 程度である可能性が高く,超対称理論の予想と一致している。
今年の LEP での最高エネルギーの実験で 115 GeV 程度にヒッグス粒子が存在する
かもしれない兆候が見いだされ注目を集めたが,これは未確認のまま実験は
終了しそうである。仮に延長が行われたとしても,ヒッグス粒子の性質を
明らかにすることは不可能である。この質量領域にあるヒッグス粒子を
発見する可能性をもつ加速器は,現時点では米国フェルミ研究所のテバトロン・
コライダーしかない。
ところで,自然界が超対称性を持っているとすれば,既知の素粒子それぞれに対して
パートナーとなる超対称粒子が存在しなければならない。これらの新粒子の
質量は数百 GeV から数 TeV の程度であると予測される。現在までの実験で
これらの粒子が発見されていないことから,
各粒子の質量の下限として 50 GeV から 200 GeV 前後の値が得られている。
ヒッグス粒子や超対称粒子を直接発見するには,できるだけエネルギー,強度の
両面で最先端の加速器が必要であり,21世紀初頭の5年間はテバトロンが
この役割を果たすことになる。一方では,直接生成することのできない
粒子でも,その間接的な影響がさまざまな素粒子過程に現れてくる可能性は
十分に存在する。特に,B メソン,K メソンなどの崩壊における稀少過程は
超対称粒子の寄与が重要になる有力候補である。
もちろん,その効果を検出するためには従来以上の
精密な実験が必要であるが,高エネルギー加速器研究機構やスタンフォード
線形加速器センターで稼働を始めている B ファクトリーや,テバトロンの
固定標的モードの K メソン実験はこれを明らかにする能力を秘めている。
さて理論的には,超対称理論は数多くのパラメータを含む理論であり,
それらを統合する背後の機構が何であるかが重要な問題である。
古くから知られている最小超重力模型は詳しく研究されているが,
最近ではそれに代わるものとして多様な可能性があることが指摘されている。
ゲージ媒介機構,アノマリー媒介機構などはこの代表的なものであり,
現象論的にも超重力模型とはそれぞれ異なった特徴を持っている。
さらに革新的な考え方として,余剰次元のシナリオが提唱されている。
これは4次元時空以外のコンパクトな空間次元が存在し,
その大きさが 10-18 m より大きく,重力の強さは従来の常識より
はるかに強い TeV スケールの結合定数を持つというもので,
現象論的にはさまざまな新しい効果が期待される。
このタイプの模型はさまざまなバリエーションがあるが,そのダイナミクスは
不明な点が多く,これからの研究に待つところが多い。
このように超対称模型にも理論的にいろいろな可能性が検討されており,
現象論的にはかなり異なったふるまいを示すわけであるが,模型に対する
制約としては直接実験から得られるものの他に,宇宙論,天体物理からの 制限も
模型によってはかなり重要になってくる。
本研究では,今まで述べてきた視点に基づき,ヒッグスセクターおよび
超対称模型に関して,そのダイナミクスの解明と宇宙論的考察,そして
その現象論的な帰結を明らかにすることであり,これによって上に挙げた最先端の
加速器実験における解析方法,実験結果の解釈の指針を与えるとともに,
将来に対する展望をひらくことを目的とする。
具体的には,
|