物や物の間に働く力の究極の姿を実験的に解明することが高エネルギー物理学(もしくは素粒子実験)の主眼です。 物を拡大して細かなところまで観察するためには高分解能の「顕微鏡」と「目」を 使いますが、高エネルギー実験では代わりに巨大な「粒子加速器」と「粒子検出器」を 用います。 現在、世界で最もエネルギーの高いアメリカのフェルミ研究所のテバトロン衝突型 加速器では物の構造を1mの10^(-19)分の1,水素原子核の大きさの1/10000まで観測 できます。エネルギーが高いほど細かなところまで観測できるのは,ハイゼンベル グの不確定性原理を知っている人ならば分かるでしょう。 実は、エネルギーが高いだけでは不十分で、 顕微鏡だったら視野が明るいこと、加速器では粒子の衝突頻度(加速器の輝度) が高いことが必要で、物の構造 やめったに起こらない相互作用を詳細に観測できるようになります。

世界をより基本的な要素から理解しようとするアイデア(理論といってよいのでしょ うか)は元をただせばギリシャ時代にはあったのですが、現代の素粒子物理学 は1897年、J.J.トムソンが陰極線として電子を取り出した時から始まったと言って 良いでしょう。以来、実験的にも理論的にも素粒子に対する理解が深まり、1970年代 には素粒子の「標準理論」として結実しました。 この「標準理論」に至るまでの重要な実験を列挙すると、不完全ながら次のように なります。

  • トップクォーク(物を構成する最も重い物体=構成子)の発見、フェルミ研究所 1994-95
  • 一連の詳細な標準理論検証実験、CERN研究所、LEP実験
  • WとZ粒子(「弱い」力を伝達する粒子)の発見、CERN UA1/UA2実験 1983-85*
  • 3ジェット事象(「強い」力を伝達するグルーオン)の観測、DESY研究所 1979
  • ボトムクォーク(2番目に重い構成子)の発見、フェルミ研 1977
  • タウレプトン(最も重い電子の仲間)の発見、SLAC 1975*
  • チャームクォークの発見、SLAC とブルックヘブン研 1974*
  • 中性ニュートリノ反応(Z粒子の存在)の観測、 CERN 1973-74
  • 陽子内部構造の発見、SLAC 1960年代初期*
  • K粒子崩壊でのCP非保存の発見、ブルックヘブン研 1964*
  • 弱い相互作用でのパリティー非保存の発見 1957*
  • "V" 型反応(ストレンジクォーク)の検出(1950年代)とクォーク模型 1964*
  • 宇宙線中のパイ中間子やK中間子の観測 1947*
  • 宇宙線中のミューレプトンの発見 1947*
  • 宇宙線中の陽電子(電子の反粒子)の発見 1933*
  • ベータ線の連続スペクトル実験1914に基づくニュートリノの仮定 1931*
  • 電子の発見 1897 とそれに続く原子模型 1903*
    *印はノーベル賞受賞実験です。高エネルギー実験の当初は宇宙線を使っていましたが、 1960年代からは加速器実験の成果が重要になっています。

    では、これですべてでしょうか?答はノーです。 標準模型は単にこれらの観測結果を 記述できるモデルに過ぎません。 間違いなくまだ観測されていない事実があるはずです。 以下は我々が持っている疑問の例です。

  • "対称性の破れ" -なぜWやZ粒子は光子の仲間なのに光子と違って重いのか?
  • "超対称性(SUSY)" - なぜ力はボーズ粒子で物の構成子はフェルミ粒子なのか?
  • "質量の起源" - なぜ構成子は質量をもっているのか?なぜトップクォークはあんなに重いのか?
  • "大統一" - 陽子は安定か?クォークとレプトンは直接反応しないのか? 電子と陽子の電荷の大きさは同じなのか?
  • "複合粒子" - クォークは素粒子なのか?
  • "ニュートリノ質量" - ニュートリノは重さがないとされているが、本当 か?重さはどの程度なのか?
  • "5番目の力" - CP-非保存は標準模型で説明できるのか?
  • ...
    もっと詳しく、どのようにして標準模型に至ったか、標準模型を超えて何があるのか、 と言うことを知りたい人は ここを訪れて みて下さい.


    原 和彦 (Webmaster of HEP Lab) on Nov. 28, 1997