素粒子物理学の第一の目的は、宇宙を構成する要素(素粒子)とそれらの間に働く相互作用の本質を明らかにし、統一的に理解することにある。 現在の素粒子物理学の標準理論では、 物質の基本構成要素であるクォークとレプトン、 それらの間の基本相互作用を媒介するゲージ・ボソン、 さらにこれらの素粒子に質量を与えるヒッグス粒子、 が登場するが、 これら素粒子の性質を詳細に研究することにより、 新たな知見を得ることを目指している。

 本研究室では、素粒子物理学の研究を、実験的な手法により遂行している。 そのひとつは、 ビーム衝突型の高エネルギー粒子加速器を用いるものであり、 標準理論の素粒子の性質の精密な測定や 標準理論を超える理論による新粒子の探索をとおして、 これらの理論の検証を行う。 これまでに、 米国フェルミ国立加速器研究所(Fermilab)のTevatron 加速器を用いた陽子・反陽子衝突実験 Collider Detector at Fermilab(CDF)でのトップ・クォークの発見(1994年)や、 欧州 CERN 研究所の LHC 加速器を用いた陽子・陽子衝突実験 ATLAS でのヒッグス粒子の発見(2012年)などの、 顕著な成果がある。

 もうひとつは、加速器に依らない実験である。自然界に存在する物質や、宇宙全体に存在する素粒子を用いて、極めて稀な反応を探索し、 素粒子の未知の性質を解明する。 具体的には、宇宙背景ニュートリノの輻射崩壊の探索と崩壊光子の精密測定、 および、原子核の二重ベータ崩壊の探索がある。

 これらの実験を実行するには、それぞれの観測・測定の対象に最適化された高性能の検出器が必要である。 新しい原理に基づく手法の開発から始まり、 実際の実験に用いることの可能な検出器の開発・建設・完成・データ取得まで、 物理解析と並び、 実験研究の重要な要素である。

 前述の ATLAS 実験は、2029年に予定される LHC 加速器の高輝度化に対応するために、内部飛跡検出器用に、放射線耐性に優れたシリコン半導体検出器を開発し 近く実機の製作を開始する予定である。他にも、将来の素粒子実験のための、半導体をセンサーとして用いた検出器の開発を行っている。 宇宙背景ニュートリノ崩壊の探索実験 COBAND では、新しい超伝導検出器 STJ および極低温で作動するエレクトロニクスを開発中である。 二重ベータ崩壊探索実験 PIKACHU では、信号源かつ検出器となる新しいシンチレータの開発を行っている。

 これらの研究により、素粒子のふるまいを解明し、究極には宇宙の成り立ちの仕組みを明らかにすることを目指している。


実験グループの紹介
年次報告書

筑波大学数理物質系物理学域の年次報告書のうち、素粒子実験研究室のものを公開しています。各年度の本研究室の活動の様子を概観できます。

2019年度以前のものは旧ウェブページからご覧いただけます。